OseeのGoStream Deckをオススメできない理由

モニターメーカーとして名高い中国のOseeより発売された低価格・多機能スイッチャー「GoStream Deck
今回はそのSDI入力付きモデルである 「GoStream Deck Duet SDI」 を購入したので実際に使ってみました。
この記事では特にイマイチだと思った部分について解説していきます。
比較対象は主にATEMシリーズになります。またプロ向けの内容になるので細かい用語の解説などは致しません。
※ファームウェア ver2.1.3時点での内容になります。

まず結論から言うと…

使えないことはないが、粗削りな部分が非常に多い です

Playbackについて

目玉の一つであるPlayback機能。
このサイズと値段でVTRが内臓されているのは革命的なのですが、実際に触ってみると様々な問題が浮き彫りになってきます。
以下にPlayback機能の残念なポイントをまとめてみました。

残念ポイントその1:再生終わりに自動でPVWにトランジションされる

ありがた迷惑機能の代表格である自動トランジション。トライキャスターで悩まされた人も多いはずです。
無効化はできず、またトランジションもカットのみになります。
ラストフレームで待機させたり、自分のタイミングでトランジションさせたい需要があるのは開発側も分かっていると思うのですが…

これを回避するためにDSKで出力しようと思ったのですが、次の余計なお世話機能が邪魔をしてきます

残念ポイントその2:再生終わりになぜか頭に戻る

DSKなら勝手に落ちることが無いのでラストフレームで待機させられると思ったのですが、再生が終わった動画は勝手に頭に戻ってしまいます。
どうあがいても自分の好きなタイミングでVTRをアウトさせることはできない仕様になっています。
現状の対策としては編集でケツを伸ばしておくことくらいしかできません。

残念ポイントその3:高ビットレートだとカクつく

Playback機能で再生できる動画のコーデックはH.264+AACで、マニュアルではビットレートの指定はありません。
しかし1080p29.97/15Mbps(VBR)/5分の動画を再生させてみたところ2分半ごろからフレームのドロップが目立つように。
同じ動画を半分の7.5Mbpsで書き出し再生させてみたところ最後まで問題なく再生ができました。
しかし7.5Mbpsともなると映像の内容によってはブロックノイズやバンディングが目立つようになります。
PC上で再生された時より目立つのでどうやらデコーダーの性能もイマイチな模様。
CPU性能がボトルネックになっているとしたら、ファームウェアでは解決できない致命的な問題です。

残念ポイントその4:再生中にメニューを開くとカクつく

これもCPU性能の低さが原因なのでしょうか。
再生中にメニューを開いてスクロールさせたり再生ボタンを長押ししてファイル一覧を開くと再生中の動画がカクつきます。
ちなみにSDI&HDMIの入力映像&音声に影響はなく、動画の音声にも影響はありません。
画音の同期がズレることもありませんでした。

残念ポイントその5:VTR選択時/ループ再生時に黒が入る

残念ポイント2の頭に戻る時もそうなのですが、動画ファイルが読み込みされる時には必ず黒が5~10フレくらい入ります。
サイネージには使えない仕様となっています。

残念ポイントその6:V尺はPCソフト上でしか見れない

これはまだ許容できるのですが、どうせならMultiviewの右下に出てきたら嬉しかったなあと
ちなみに設定項目に「Progress Bar On/Off」というものがありこれをオンにするとMVの右下に再生の進行状況を示す青いバーが出てきます

GoStream Deck MV Progress

残念ポイントその7:パネル上のクリップ頭出しボタンが機能していない

押したらクリップ間を移動できるはずの|◀と▶|のボタンが効きません。
PCのソフトウェア上からだと正常に動いておりました。s

残念ポイントその8:早送り/巻戻しができない

6万円のスイッチャーに求めることではないのかもしれないですが、あれば嬉しい機能です
極めつけにはシークバーが付いてくれると最高なのですが…

残念ポイントその9:一時停止して再生すると音声が乱れる

再生が始まった直後に音声にノイズが走ります


…とあまり洗練化されていないPlayback機能でした。
正直これを目当てで買ったので残念な結果となってしまいました。
とはいっても必要最低限は使えるので、現場によってはこれでも十分です。


SuperSourceについて

これは購入前に分かっていたことなのですが、ATEM 2M/E以上やExtremeシリーズにあるようなSuperSource機能とは全くの別物です。

残念ポイントその1:選択できるソースは2つのみ

ATEMは4つまでPinPできます

残念ポイントその2:しかも配置は4つのプリセットからしか選べない

これは致命的です。SuperSourceを名乗ってはいけません。
選べるプリセットは以下の画像の通りです。左右のブロックをまとめて上下に動かすことは可能です。
またバックグラウンドに画像やカラー、各入力、VTR等を指定することは可能です。

GoStream Deck SS 1
GoStream Deck SS 2
GoStream Deck SS 3
GoStream Deck SS 4

残念ポイントその3:最大までクロップしても1ピクセルだけ残る

2つのソースはそれぞれクロップができます。
片方のソースをクロップして消して、UpStreamKeyのワイプを使えば片方だけでも疑似的な自由配置ができる!と思ったのですが縦横を最大までクロップしても1ピクセルだけ残ってしまい夢破れました。

GoStream Deck SS 5

↑赤の右上に少し残っている

画面構成が現場で決まることも多い配信界隈では、柔軟に対応できることが求められます。
ATEMの4系統SuperSourceやRolandの2系統PinPに甘えるな!というOseeからの戒めかもしれません。


オーディオ周りについて

こちらも残念な部分が多くあり、またバグも存在しています。

バグ:「Switch with Effect」を有効にしてトランジションさせた時に、AFVソースの音が全て聞こえる

「Switch with Effect」は、ATEMで言う「切り替え時にオーディオにトランジションを追加」で、トランジションの遷移に合わせてオーディオをフェードイン/フェードアウトしてくれる機能です。
バグの内容としては、例えばinput1とVTRをAFV(Audio Follow Video)に設定した状態でVTRとSTILL間でトランジションさせるとします。
すると遷移途中でinput1の音が入ってきてしまいます(この設定だと普通はinput1の音は聞こえません)。
v2.1.3時点での現象なのでおそらく今後改善されるとは思います。

残念ポイントその1:モノラルダウンができない

片chのみに入力した音声を左右に振ることができません。
ATEMでは「オーディオ分割」という機能があり、モノラルダウンや左右に振り分けることが可能です。
前段にミキサーを入れるか、後段の配信ソフトウェア等で処理する必要があります。

残念ポイントその2:モニターアウトがミュートできない

これは本当に謎の仕様なのですが、一定以上のレベルからしかボリュームの設定ができません
更には最小でもイヤホンや周りの環境によっては大きいと感じるレベルです。
ただモニターソースは全ての物理インプットとAux(USB/NDI/VTRのいずれか)から選ぶことができ、またプリフェーダーなので簡易的なディエンベ機として使うことができます。


In/Out周りについて

残念ポイントその1:インターレースが汚すぎる

GoStream Deck PtoP 1
GoStream Deck ItoP 1
GoStream Deck PtoP 2
GoStream Deck ItoP 2

左の画像は「1080p29.97 to 1080p29.97」、右の画像は「1080i59.94 to 1080p29.97」を行った時のキャプチャです。
I to Pの処理がとてつもなく汚いことが分かると思います。
まあATEM miniシリーズも同レベルですし、映像の内容によってはそこまで目立ちません。
とは言え基本インターレースの信号を入力することは避けたほうが無難です。
どうしても必要な場合は画質を諦めるか前段にUpDownCrossHDなどのコンバーターを挟みましょう。

残念ポイントその2:StreamingとRecordとUVCが同じアウトとして扱われている

こちらも非常に惜しいです。
特にUVCでMultiViewを出す需要が少なからずあると思うので、もしファームウェア側で対応できるのであれば是非アップデートしていただきたい部分です。


発展の余地はかなりある

新規参入ということもありまだまだ未完成感のあるスイッチャーでした。
とはいえ基本的な機能に問題はなく、低バジェットの現場や、予備機や返しなどあまり負荷をかけず用途を限定して使う形であれば問題ないかなと思います。
また精力的にアップデートが配信されており、AmazonやRedditのレビューも概ね好評です。
BlackmagicDesignといずれ真向から対抗できるだけの潜在能力は持っていると思います。
今後への期待が膨らむ製品でした。